ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)

DNA 分子生物学

 最近ニュースでPCR検査の話をよく聞くので、その検査の原理となるポリメラーゼ連鎖反応(PCR; Polymerase Chain Reaction)について調べた。なお、筆者には医学の知識は全く無いのでPCRによるDNA増幅の原理的な部分に絞って記載している。

DNAの構造

 二本鎖DNAが分子レベルでどのような構造をしているかというと、図1のように相補的なDNAが互いの塩基で水素結合を形成し、全体としては二重らせん構造となっている。DNAの鎖には方向性があり、5’末端と3’末端がある。二本鎖DNAでは互いに逆並行になっているのがわかる。(5’→3’の方向が互いに逆)

DNA_structure
図1 DNAの構造

PCRの仕組み

 PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の「ポリメラーゼ」というのはDNAポリメラーゼのことで、その名の通りDNAの合成を触媒する酵素のことだ。PCRには、このDNAポリメラーゼが必要なわけだが、増幅を行いたいDNAとポリメラーゼの他にも「プライマー」という短いDNAが必要になる。DNAポリメラーゼは、プライマーを足掛かりにして5’末端から3’末端の方向へDNAを伸長してゆく。
  図2にPCRの反応サイクルを示した1)。増幅対象のDNA、DNAポリメラーゼ、プライマーの3つが入った溶液の温度を上げたり下げたりしているとイメージしてほしい。これを行うのと何が起こるのか順番に説明してゆく。
 ステップ1で溶液の温度を上げる。この時、二本鎖DNAの水素結合が解離して一本鎖となる。再び温度を下げると水素結合を再形成しようとするが、増幅対象のDNAよりもプライマーの濃度の方がずっと高いために、プライマーと対を作ることになる。
 ステップ2でポリメラーゼがプライマーを足掛かりに5’末端から3’末端の方向へDNAを伸長してゆく。これにより2対の2本鎖DNAが得られる。
 その後、ステップ1と2を交互に繰り返してゆくことでプライマーによって指定された範囲のDNAが増幅されてゆくことが理解できると思う。理論上ステップ1と2をn回繰り返すと理論上2n対の二本鎖DNAが得られることになる。つまり、理屈の上では20サイクル繰り返せば約100万倍に増幅されるということだ。

図2 PCRの反応サイクル

RNAに適用する場合

 以上でPCRによって二本鎖DNAを増幅する仕組みを解説したが、DNA(デオキシリボ核酸)ではなくRNA(リボ核酸)の持つ情報を増幅したい場合はどうしたらよいだろうか。ウィルスは大別するとDNAウィルスとRNAウィルスというグループに分けられる。そのため、RNAウィルスのゲノム情報を増幅しようと考えると、もう一段階工夫が必要になる。ちなみに新型コロナウイルス(SARS-CoV2)はRNAウィルスの中の一本鎖RNAウィルスというグループに属するらしい2)
 RNAに対してPCRを行うためにはまず、逆転写酵素というものを使ってRNAを鋳型にしてDNAを合成し、このDNAに対して上述のようなPCRを行えばよい(RT-PCR; Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)。逆転写酵素というのはスキーム1に示す「細胞生物学のセントラルドグマ」の転写→翻訳の流れに逆行するという意味で「逆」という文字が付く。逆転写酵素は、RNAの配列と相補的なDNA鎖(complementary DNA; cDNA)を合成するので、このcDNAに対して通常のPCRと同様な手順を踏むことで、元々のRNAと同等な情報を持つDNAを増幅することができる。

スキーム1 細胞生物学のセントラルドグマ

参考

  1. Bruce Alberts, Dennis Bray, Karen Hopkin, Alexander Johnson, Julian Lewis, Martin Raff, Keith Roberts, Peter Walter. Essential 細胞生物学. 原書第2版, 南江堂, 2006, 347-351.
  2. 日経バイオテクONLINE 「新型コロナウイルスについて今分かっていること」
    https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/03/10/06668/

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